彼らの間に何があったのか、正直、俺はよく知らない。
 ケンカでもしたのだろうか。あぁ、内海と藤堂ならあり得そうだ。あいつらはよくケンカしている。いや、内海が藤堂を怒らせている、といったほうがいいか。でも仲が悪いわけじゃない。互いが互いを信頼している、という感じだ。あいつらをよく知っているわけじゃないが、教室で二人のやり取りを見ている限り、そう思う。
 だが、仮に二人がケンカしたとしても、それは彼ら五人にとって、些細な出来事のはずだ。誰かが消えたり、誰かが空虚に笑ったりするようなことじゃない。何かもっと、彼らの地盤を揺らす……いや、壊す出来事があったに違いない。
 でも、それを探るほど俺は野暮じゃない。これは、彼らの問題だ。外野が興味本位で首を突っ込んではいけない。祟らぬ神に……何か違うな。
「浜野ー! 帰ろうぜ」
「おう。あれ、あいつらと帰んなくていいのか?」
「んー、今日はみんな忙しいんだってさ」
「そうか」
 教室の入り口から明るい声で呼ばれ、俺は帰る支度を始めた。あいつらと帰らないなんて珍しいな。何もなければいいが。
「なんか難しい顔してたな。考え事か?」
 俺より幾分か背の低い佐々木が、少し心配した面持ちで聞いてきた。しかし彼の眼には、何も映っていない。
 こいつが記憶を失ったのも、何か関係があるのかもしれない。
「唐揚げ食いたいなーって思ってた」
「おっ、いいじゃん! 寄っていこうぜ」
 ガラス玉のような眼を細め、佐々木は少し先を歩いた。何も変わらないはずなのに、決定的に何かが違う。でも、それを解決するのは俺じゃない。俺に今できることは、こいつと唐揚げを食うことくらいだ。
 気づいたら太陽は沈んでいた。もうすぐ夜がやってくる。

スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。

COMMENT FORM

以下のフォームからコメントを投稿してください